最近、彼が不機嫌なことが増えた。前より疲れて見える。以前ほど、求められなくなった。
それを「愛情が冷めたのかもしれない」と受け取る前に、知っておいてよいことがあります。
男性の体にも、ホルモンの波があります。男性のホルモンの変化については、女性より語られてこなかったものです。
※本記事は一般的な情報をお伝えするものであり、診断や治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
テストステロンという、男性のホルモン
男性の体で中心的な役割を担っているのが、テストステロンという男性ホルモンです。
筋肉や骨をつくること。性機能を保つこと。そして(ここが見落とされがちなのですが)意欲、集中力、気分の安定にも深く関わっています。このホルモンは、加齢とともに少しずつ減っていきます。遊離テストステロンの値は、20代以降、10年ごとにおよそ1.6pg/mLずつ下がっていくとされています。
女性の閉経のように、はっきりした区切りがあるわけではありません。だからこそ気づかれにくく、「年のせい」「性格が変わった」で片づけられてしまうのです。
LOH症候群という言葉
この変化が、日常生活に支障をきたすほど強く出ることがあります。医学的にはLOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)と呼ばれ、いわゆる「男性の更年期」にあたるものです。
日本では2007年に診療の手引きが作られ、日本泌尿器科学会と日本メンズヘルス医学会がその整備を進めてきました。きちんと医学的に位置づけられた状態だということです。
あらわれかた
症状は、体・心・性の三方向に広がります。
- 体——全身の倦怠感、肩こり、内臓脂肪の増加、筋力の低下、骨がもろくなる
- 心——意欲の低下、集中力が続かない、イライラ、不眠
- 性——性欲の低下、勃起障害(ED)
並べてみると、気づかれることがあると思います。「怠けている」「機嫌が悪い」と見えるものの多くが、ここに含まれているということです。
やる気が出ない。すぐイライラする。眠れていない。これらは性格の問題として扱われがちですが、背景にホルモンの変化があることがあります。
EDは、体からのサインであることがあります
ここは、ぜひ知っておいていただきたいところです。
勃起は、血管の働きによって起こります。そして陰茎の動脈は、体のなかでも細い部類に入ります。つまり血管の状態が悪くなったとき、その影響が比較的早い段階であらわれる場所だということです。
このため、EDは動脈硬化や心血管の問題の、初期のサインとして現れることがあると指摘されています。糖尿病や高血圧、脂質異常症が背景にあることも珍しくありません。
「年齢のせい」で済ませてしまうと、体が出している別のサインを見逃すことになりかねません。これは、責める話ではなく、受診をすすめる理由になる話です。
なぜ、男性は病院に行かないのか
不調があっても受診しない。これは多くの女性が感じていることだと思います。
理由はいくつも重なっています。
そもそも「男性の更年期」という概念を知らない。性の悩みを口にすることが、そのまま「男らしさ」への否定に感じられる。泌尿器科という場所に馴染みがない。弱音を吐かないよう育てられてきた。
女性が婦人科について語れなかった歴史と、構造はよく似ています。言葉を持たないと、人は相談できません。
どこへ行けばいいのか
相談先は泌尿器科です。近年は「メンズヘルス外来」を掲げる医療機関も増えています。
診断では、血液検査で遊離テストステロン値を測ります。日本人男性は総テストステロン値の加齢変化がはっきりしないため、こちらの値が指標として用いられます。
症状が強く、値が著しく低い場合には、テストステロン補充療法という選択肢があります。保険診療では、2〜4週おきの筋肉注射という形が一般的です。
ただし、すべての人に必要な治療ではありません。まず検査を受けて、状態を知ることが出発点です。
どう伝えるか
いちばん難しいのが、ここだと思います。
「病院に行って」から始めない
受診をすすめる言葉は、多くの場合「あなたは異常だ」と翻訳されて届きます。まず心配していることだけを伝えるところから。
性の話から入らない
性機能の話を入口にすると、防御が固くなります。「最近よく眠れてる?」「疲れてない?」のほうが、扉は開きやすいはずです。
情報だけ、置いておく
説得しようとせず、こういう状態があるらしい、という情報だけを渡す。本人が自分で決める余地を残すほうが、結果的に動くことが多いように思います。
「愛情の問題ではないかもしれない」と、自分にも言う
これはご自身のためでもあります。求められなくなったことを、自分の魅力の問題として抱え込んでいる方は少なくありません。そうではない可能性があると知っておくことは、あなた自身を守ります。
おわりに
知ることは、相手を分析するためではありません。責めずに済むためです。
不機嫌の理由がホルモンかもしれないと知っていれば、受け止め方が変わります。求められないことに理由があるかもしれないと知っていれば、自分を責めずに済みます。
そして、こうも思うのです。言えないのは、女性だけではなかったということ。
お互いの体について知らないまま、察し合おうとして、すれ違ってきた。BiBiOが「愛する、を美しく。」という言葉に込めているのは、その先にある関係のことです。知って、言葉にして、対等でいること。それは、どちらか一方の努力では成り立ちません。
参考
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断・治療の代わりとなるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関にご相談ください。