TOP/コラム/デートDVという、見えにくい暴力について

デートDVという、見えにくい暴力について

好きな人といるのに、息が詰まるような感覚を覚えたことはありませんか。

それは気のせいかもしれませんし、そうではないかもしれません。
今日は少しだけ立ち止まって、恋愛のかたちそのものについて考えていただけたらと思います。

いま、つらい状況にある方へ

最後まで読まなくて構いません。以下の窓口は、いずれも匿名でご相談いただけます。

DV相談+(プラス) 0120-279-889(365日24時間・通話無料)
DV相談ナビ #8008 警察相談専用窓口 #9110
緊急の場合は110番へおかけください。

4〜5人にひとり、という数字

内閣府が令和5年度に実施した「男女間における暴力に関する調査」によると、交際経験のある方のうち18.0%が、交際相手から被害を受けたことがあると回答しています。女性に限れば22.7%。およそ4〜5人にひとりの割合です。男性でも12.0%、8人にひとりが経験しています。

決して、遠い誰かの話ではありません。

デートDVは、殴られることだけを指すのではありません

「DV」と聞くと身体的な暴力を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、デートDVにはいくつもの形があります。

  • 身体的なもの 叩く、突き飛ばす、物を投げる。直接触れられなくても、目の前で壁を殴る、物を壊すという行為も含まれます。
  • 精神的なもの 人格を否定する、無視をする、「別れたら死ぬ」と言う。
  • 性的なもの 体調が優れないときでも求められる、避妊に協力してもらえない、望まない写真や動画を求められる。
  • 経済的なもの お金を借りたまま返さない、支払いを当然のように求められる。
  • 社会的なもの 友人や家族と会うことを制限される、連絡を取ることを咎められる。
  • デジタルなもの スマートフォンを勝手に見られる、パスワードの開示を求められる、位置情報の共有を強いられる。

けれど、種類を並べるだけでは足りないのだと思います。もう少し手前に、問い直すべきことがあります。

「ふつうの恋愛」のなかに、隠れているかもしれないデートDV

デートDV予防教育に長く携わってきた伊田広行さんは、著書『シングル単位思考法でわかるデートDV予防学』のなかで、印象的な指摘をされています。デートDVは特殊な人が起こす特殊な事件ではなく、「ふつう」とされている恋愛のかたちのなかにこそ、その芽があるという指摘です。

その「ふつう」とは何か。伊田さんはそれを「カップル単位」の恋愛と呼びます。

ふたりでひとつ。何でも一緒に。すべてを打ち明け合う。相手の予定は自分の予定。——恋愛の理想として、わたしたちが疑わずに受け取ってきたものです。ドラマでも、歌詞でも、繰り返し美しいものとして描かれてきました。

けれど、ふたりの境界が溶けてひとつになるということは、どちらかが相手の領域に踏み込んでも、それが越境だと気づかれない状態でもあります。

スマートフォンを見せ合うのは、隠しごとがない証。
今どこにいるか伝え合うのは、思いやり。
週末は必ず一緒に過ごすのが、恋人。

ひとつずつは、愛情のかたちに見えます。ただ、そこに「そうしない自由」がまだ残っているかどうか。それを確かめないまま「ふたりでひとつ」に入っていくと、いつのまにか片方だけが自分を差し出していた、ということが起こります。

これはデートDV?見極めるための4つのものさし

同書では、その関係が健やかかどうかを見きわめる手がかりとして、「安全・自信・自由・成長」という4つの言葉が挙げられています。私はこれを、とても実用的な問いだと感じました。そのまま、ご自身に向けてみてください。

安全

その人といるとき、身体も心も、おびやかされずにいられますか。機嫌をうかがわなくてよいですか。

自信

その人といるようになってから、自分を好きでいられていますか。「わたしはダメだ」と思う回数が、増えていませんか。

自由

会いたい人に会えて、行きたい場所に行けていますか。やめる自由、断る自由、ひとりでいる自由が残っていますか。

成長

その関係のなかで、あなたはひらいていっていますか。それとも、縮んでいっていますか。

このうちひとつでも曇っているなら、立ち止まってよいのだと思います。我慢強さは、美徳として褒められがちですが、ものさしにはなりません。

相手の機嫌は、誰の課題か

同書がもうひとつ手がかりとして示すのが、「課題の分離」という考え方です。

これは自分の責任と相手の責任を、混ぜずに置いておくことを言います。

相手が不機嫌である。それは相手の課題です。あなたがそれを鎮めなければならない、という義務は、本来どこにもありません。

けれど「ふたりでひとつ」の関係のなかにいると、この線が引けなくなります。相手の感情は自分の責任になり、自分の一日が、相手の機嫌によって決まるようになる。気づいたときには、相手の機嫌を損ねないことが、日々のいちばん大きな仕事になっています。

線を引くことは、冷たさではありません。線があるからこそ、その線を越えて手を伸ばすことが、意味を持つのだと思います。

嫉妬は、愛情の証でしょうか

同書は、嫉妬や執着といった「グレーゾーン」にも踏み込んでいます。

嫉妬されると、愛されている実感を持つ方は少なくありません。けれど嫉妬の中身をほどくと、そこにあるのは多くの場合、相手を失うことへの不安であり、その不安を鎮めるために相手の行動を狭めていく動きです。

愛情なのか、不安の処理なのか。両者はよく似た顔をしています。見分ける手がかりは、やはり先ほどの4つに戻ります。その嫉妬のあとで、あなたの自由は増えましたか、減りましたか。

法律も、少しずつ変わっています

2024年4月1日、改正されたDV防止法が施行されました。

保護命令の対象が、「自由・名誉・財産」に対する加害を告知しての脅迫を受けた方まで広がり、接近禁止命令の期間も6か月から1年に伸びています。違反への罰則も重くなりました。

注目したいのは、電話等禁止命令の対象に加えられた行為です。緊急時以外の連続した文書やSNSの送信、深夜早朝(22時〜6時)の送信、性的羞恥心を害する画像の送信、そして——承諾のない位置情報の取得

法律が、こうした行為を「暴力」として名指しするようになりました。この変化には、意味があると思っています。

ただし、お伝えしておかなければならないことがあります。DV防止法が保護命令の対象とするのは、配偶者、および「生活の本拠を共にする交際相手」です。同居していない交際相手からの暴力は、この法律の直接の対象にはなりません。

制度には、まだ届いていないところがあります。だからこそ、制度を待たずに相談できる場所を知っておいていただきたいのです。

相談できる場所

いずれも匿名で構いません。「これは相談していいことなのだろうか」と迷う段階で、大丈夫です。

DV相談+(プラス)
0120-279-889(365日24時間・通話無料)
SNS・チャット相談は12:00〜22:00、メール相談は24時間受付。英語・中国語・韓国語など10言語に対応しています。

DV相談ナビ
#8008(はれれば)
お近くの配偶者暴力相談支援センターにつながります。

警察相談専用窓口
#9110
緊急の場合は110番へ。

ひとつだけ、お願いがあります。相手と別れる、距離を置くという判断は、必ず誰かに相談したうえで進めてください。別れを切り出す前後は、状況が不安定になりやすい時期でもあります。ひとりで動かないでいただきたいのです。

「自分を、そしてお互いを、堂々と愛する」ということ

BiBiOは、「愛する、を美しく。」という思想を掲げています。そして、自分を、そしてお互いを、堂々と愛することを願ってきました。

この本を読んで気づいたことがあります。わたしたちが掲げてきたものは、まさに「シングル単位」の愛のかたちだったということです。ふたりでひとつになるのではなく、ひとりとひとりが、ひとりのまま隣にいる。溶け合って輪郭を失うのではなく、輪郭を持ったまま、手を伸ばす。

そのためには、まず自分の輪郭を知っていなければなりません。何が心地よくて、何がそうでないのか。どこまでが心地よくて、どこからがそうでないのか。それは誰かに教えてもらうものではなく、自分の内側から見つけていくものです。

自分の輪郭を知っている人は、それが踏み越えられたときに、気づくことができます。そして、言葉にすることができます。

同意とは、一度取れば終わるものではありません。そのつど確かめ、そのつど更新していくものです。面倒に思えるかもしれませんが、その面倒さのなかにしか、対等な関係は育たないのだと思います。

わたしたちがブランドとして届けたいのは、突き詰めればそこにあります。

最後に

もし、この文章を読みながら、特定の誰かの顔が浮かんだのだとしたら。

それは、あなたが気づいたということです。気づけたことは、責められるべきことではありません。長く気づけなかったとしても、同じです。「ふたりでひとつ」という言葉で包まれた支配は、そもそも気づきにくいように出来ています。

どうか、ひとりで抱えないでください。


参考文献・出典

お問い合わせ

CONTACT